読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

松永真 「半径3メートルの発想」

 松永真は国内外を問わず精力的に活躍している日本を代表するグラフィックデザイナーのひとりである。有名な代表作をあげるならば、松永真特有のグラフィック表現が展開し、文字だけを全面にうちだした「北欧デザインの今日_生活の形」、多色のストライプによる「カリフォルニアアート・シーン」、平和や環境をテーマとしたポスター「PEACE」「VISION OF WATER」などがある。またシンボルやロゴタイプなどをみると、それぞれのテーマに基づいた造詣を生み出す。特にロゴタイプにおいては文字の一部を切り落としたり、反転させたりなどタイポグラフィの一般常識を打ち破り、可読性のぎりぎりのせめぎ合いの所を狙った見事なデザインをもたらし、まさに日本のタイポグラフィ界に新たな風を吹き込んだ人物である。

松永真の活躍は1978年にニューヨークで行われた「日米グラフィックデザイン展」において金賞を受賞した所からスタートする。それを皮切りに世界各地での著名なコンペにおいて受賞が続く。[注1]それはイコールとして松永真のデザインが世界各地に認められたのである。日本的なものからくる物珍しさではなく、あくまで国際的視点から受け入れられたものが具体的な形として現れた結果であった。
 アメリカのクリエイティブディレクターであるルー・ドーフスマンは「使われている日本の文字さえなかったら、それが日本人の作品だということは誰も見抜けないだろう」と、松永真のデザインに国際性があることを指摘している。
  /> 松永真のデザインは常にコンセプトが明快で、それでいて多彩である。洗練された構成要素、テーマに対しての深い理解とアイデアが持ち味である。無駄がなく妥協を許さないプロフェッショナルな仕事ぶりが松永真のデザインを支える柱となっているのだ。
 松永真の作品において最も素晴らしいのは視野の深さ、思考を表現するイメージであるとルー・ドーフスマンは語る。[注2]
 松永真のイメージの広大な分布範囲は実に驚異的である。一方に、ゆったりと自由で、力強い筆の流れ、躍動する色彩表現があるかと思えば、片一方では、想像されたイメージが緻密で最新な表現形式とって、別種のメッセージを伝達する。それらは互いを補い合い、要求されたテーマを的確に表現するために、完全に効果的で同時に視覚的に劇的な表現を想像するのである。
 けれども、松永真が卓越しているのは、単にその素晴らしき技術や表現形式にとどまらない。作品の内側に内包するアイデアをさらに深いところにまで追究していくと、そこには曖昧な思考は存在しない。洗練された計算のうえに成り立つ思考過程が誰の目にも明白に浮き彫りとなる。それはまさに思考の具現であり、西洋美術が長い歴史の中で追い求めてきた「完璧」という存在に近しい距離に存在しているのではないかと私は思う。
 グラフィックデザイナーとしてその才能を惜しむことなく発揮している傍ら、松永真にはもうひとつの顔が存在する。それはプロダクトデザイナーとしての顔だ。
 誰もが一度は目にしたことがあるスコッティやブレンディ、UNOといった日常生活を支えるプロダクトは松永真がデザインしたものである。スコッティについて松永真は語る。[注3]
ティッシュというのは老若男女万人の生活必需品だから、全方位形に親しめるものを要求あれる。そういうとき私はいつも、私にとってティッシュペーパーとは何か、私はどのようなものを欲するのだろうか、という地点からスタートする。
 このように誰に対しての作品であるのかをあらかじめ熟考することは松永真にとっては作品造りの基盤であり、原点なのである。大げさな理論ではなく、自分の日常生活の領域に焦点を合わせ、確認行為をする。言うなれば、それが松永真のデザイン論なのである。
 松永真はこのデザイン論を「半径3メートルの発想」と語っている。亀倉雄策は松永真のデザインを「日常性の美学」と称している。[注4]
これほど松永真に合う言葉は見つからない。日常の身辺から見落としがちなデザインのアイデアを見事にすくいあげる松永真の判断の正確さは、他のどのデザイナーの追従を許さないものがある。
生活者の立場になり、既成の枠に縛られることなく、そのデザイン物が自分にとってどうあるべきなのか、それを実現させるにはどうのようなプロセスを踏むのか、立ちはだかる課題をいかに消化するのか、それはまるで教科書のように、明確なスタイルとして私たちに見せつけてくれる。まさに、それは松永真の特性と言えよう。
 松永真のこの特性はデザイン界において、まさに得難いひとつの価値であり、あらゆるデザイナーの目指すべき場所を示してくれていると私は思う。新しい概念を切り開くデザインを展開し、あらゆる方向に広がり続けている。本質的な価値を求められるデザイン業界において松永真の「半径3メートルの発想」こそ根底にあるべき思想なのではないだろうか。

 

 

注1)ウィキペディア 松永真 http://ja.wikipedia.org/wiki/松永真 [2013年8月2日]
注2)「松永真のデザイン・ニューヨーク展」図録 パーソンズ・スクール・オブ・デザイン・ニューヨーク 1989年
注3)第一紙行40周年記念「松永真のデザインワークス」全国巡回展図録 ショーイングスペース・クロス 1989年
注4)松永真、デザインの話。+11 著者 松永真 2000年発刊

 

 


人気ブログランキングへ

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

広告を非表示にする