僕は世間で言うとこの「大人」にあたります。
成人を超えれば、社会ではそう認識される。それがお約束です。
「リリィ・シュシュのすべて」「花のアリス」 2つとも岩井俊二監督の作品です。
どちらの主人公も、まだ社会で言うところの子どもであり、とても狭い世界の中を生きています。
今回はこの2作品について記事にします。
「リリィ・シュシュのすべて」
リリィ・シュシュのすべては中学生というもっともあやふやな時期の少年とその周囲を独特な手法で描きだした作品です。
イジメ、自殺、レ○プ、援○といった過激なテーマが入り混じる不快でカオスな世界と、 美しい光に満ちた田園風景がスクリーンに映し出されている。
撮影監督、篠田昇氏の素晴らしい映像美とは裏腹に内容は非常に不快極まりない。
特に市原隼人演じる主人公「蓮見雄一」が忍成修吾演じる「星野修介」のイジメグループに
リンチまがいのイジメを受け、 無理やり自慰をさせられるシーンなどは嫌悪感しか抱かないだろう。
少なくとも今の自分。
大人になった自分はそう感じている。
ならば子どもの頃……ちょうど、中学生の自分ならばどう感じるだろう。
思い出してみると、少し感覚が変わってくる。
人とは違ったものへの憧れがあった。
今思えば痛々しい趣味だが、僕はドクロのアクセサリーを身につけ、ヴィジュアル系バンドの曲をひたすら耳にし、 まさに典型の中2病というやつに感染していた。
ただ「特別」でいたい。 そういう時期だ。
道を外れた生き方に羨望の眼差しを向け、並の生き方には嫌悪を抱く。
周囲の大人がただただ邪魔なだけ。
悲観的な思考だけが肯定される。
そのくせ自分を嫌悪し、それを誤魔化すために他人を傷つける。
口は本音を語らない。
でも、誰かに気づいて欲しい。
自分で書いていて、背中が痒くなってくる。
多かれ少なかれ、思春期をむかえた子どもこのような症状がでてくるものだと思う。
あの映画の主人公たちも例外ではありません。
皆、それぞれ違う境遇にいる中で、自身に嫌悪し、特別でいたいと願っている。
だかからこそ特別な誰かに自分を投影していく。
蓮見雄一、そして星野修介にとっても、それがリリィ・シュシュという作中に登場するアーティストであり、唯一の救いでした。
残酷な現実へのアンチテーゼであると言えるでしょう。
どこかで自分をダメにしてしまいたい。
一種の破滅願望。 生きることが怖く、死ぬことも怖い。
誰かを傷つけたい。誰も傷つけたくない。
矛盾が常に寄り添うのです。
それを言葉にすることが出来ない。
だから蓮見雄一も星野修介もリリィ・シュシュの歌声の中で、ただ泣き叫ぶしかなかったのだと思います。
大人の僕は子どもの彼らには選べない道を進むことが出来る。 だが、彼らには目の前の道しか進むことを許されていない。
それが子どもであることの理不尽さを表しています。 悲しい悲しい「フィクション」です。
花とアリス
花とアリスはありえないほど陳腐で、勘違いばかりの恋を綴ったお話です。
「花の女子高生」とはよく言ったものだと思います。
桜が舞う4月に鈴木杏演じる「荒井花」と今話題の蒼井優演じる「有栖川徹子」はリアルな息遣いをしながら歩いて行く。
それは演技というにはあまりにお粗末で素人がただ歩いていると言っていい。
そこに「華」は感じない。
その素人感こそがリアリティを引き出してくれる。
リリィ・シュシュほどの不快感はこの作品にはありません。
例えるならば、少女漫画のような世界でしょう。
恋というありがりなテーマにレトリックな映像とリアルな脚色を加える。
それが花とアリスという世界を構成しているのです。
彼女たちは嘘の恋と周囲の環境に苦悩します。
仕事へのプレッシャー、家族への不安、友情と嫉妬、淡い恋心。
大人になるまでには必ず経験することでしょう。
思春期にありがちな悩みです。
子どもである彼女たちは、それらに対する答えを求めながら日々生きています。
それがかけがえのない日々であるという実感を得るために、たくさん傷ついて、たくさん泣いて、たくさん笑うのです。
やがて培った思い出を引き出しに仕舞って、大人になっていく。
それでも現実は確かに「そこ」にあった。 記憶となってしまっても、過去になってしまっても、そこに存在していたのです。 それがたまらなく愛おしい。
おとなとこどものせかいの違い
子どもというものは、何とも残酷な世界で生きています。
逃げ道はなく、言葉というツールは飾りでしかない。
周囲に映る自分と本当の自分へのギャップに苦悩する。
誰も答えを教えてくれないし、当人も何を悩んでいるのか言葉に出来ない。
袋小路の中で、それでも何かに救いを求めて、また別の苦悩を味わう。
必死に生きるのか、必死に死ぬのか。
そんな言葉遊びに真剣になる。
夜中になると、ふとこのまま、一生の眠りについてしまうんじゃないかと怖くなる。
それでも眠くなるし、朝は来る。 僕はそれを繰り返しているうちに、いつの間にか大人になっていました。
子どもの頃に憧れたお酒やタバコは、今や普通に買える。
コンビニに行って、店員に差し出せばすぐだ。 年齢確認なんてされもしない。
しかし、あんなに煌めいていたものたちはすっかり色あせてしまいました。 リリィ・シュシュも花とアリスも僕には遠い遠いセピア色のフィクションにしか映らない。 それはまるで寂寞とした深夜の街のようで……僕はため息しかでてこなかった。
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